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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)2793号 判決 1974年6月26日

理由

一、請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、被告らの融通手形の主張について判断する。

《証拠》を総合し、弁論の全趣旨に鑑みると、野村は、野村綿業という名称で製綿の販売、寝具の製造・販売等を業としていたものであるが、昭和四二年頃から被告会社との間に繊維製品の販売取引を開始しこれを継続するとともに相互の金融上の便宜を図るため互に融通手形を交換していたこと、ところが野村は、昭和四六年初め頃から、被告会社との間の融通手形の交換のみでは金融操作に困難を来したため、被告柳沢に対し、同人と旧知の間柄にある原告会社の代表取締役富樫正紀(以下単に「富樫」という。)に依頼して野村と原告との間に融通手形を交換し、野村の金融の便宜を図つてもらいたい旨の申出をしたこと、そこで被告柳沢は、富樫にそのことを申入れたところ、同人から原告会社の取引量からみて、二、〇〇〇万円程度なら要求に応じてもよいが、それには若干の利息をつけると同時に原告会社の帳簿操作の都合と一応商業手形と見せかけるため、まず被告会社から原告に繊維製品を販売した後原告がさらに野村にこれを転売するよう仮装して処理してほしいと要請されたこと、被告柳沢は、野村に対し、富樫の申入れを伝えるとともにその対策を協議したところ、富樫、野村、被告柳沢の三者間において、合意に達したので、昭和四六年三月以降、原告と野村との間において、被告会社を仲介とし繊維製品の販売を仮装した融通手形の交換が行われるようになつたのであるが、この方法は、まず被告会社が野村から同人振出の約束手形を数通毎月受領し、これと右手形金額に見合う被告会社発行の納品書と請求書を添付して被告柳沢が原告に交付するとともに原告からこれと引換に野村振出の約束手形の金額から四パーセントを控除した金額で、期間四カ月前後、満期日は野村振出の手形の満期日の五日ないし七日前の受取人白地の約束手形の振出交付を受け、これを後日野村に交付し、野村において、自己の取引銀行でこれを割引いてその割引金を取得するが、他方原告においても野村振出の約束手形を自己の取引銀行で割引いてその割引金を取得しあるいは銀行に取立委任して支払期日にその手形金の支払を受けるというものであつたこと、ところが、野村が昭和四八年二月二五日、経営不振のため倒産し不渡手形を出して銀行取引を停止されたため、原告は、本件手形の支払を受けられなくなつたが、本件手形と交換に原告が振出交付した手形は野村が倒産した後も原告においてすべて支払期日に支払をすませて決済したこと、がそれぞれ認められ、右認定に反する証人野村久七の証言および原告会社代表取締役富樫正紀尋問の結果の一部はたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右に認定した事実関係からすると、原告振出の手形は融通手形として、本件手形はその見返り手形として交換的に振出さたれもので互に対価関係に立ち、俗にいわゆる書合手形または馴合手形といわれるものに該当するものというべく、しかも野村は、原告振出の手形を割引いて割引金を取得し、振出人たる原告が振出人として手形所持人に対しその手形金の支払を完了した以上、野村において、いわゆる融通手形の抗弁を援用して本件手形金の支払を拒むことは許されないものといわなければならない(最高裁昭和二九年四月二日第二小法廷判決・民集八巻四号七八二頁参照)。

したがつて、被告らの融通手形の主張は採用することができない。

三、次に、被告らが野村の原告に対する手形債務について保証したかどうかについて判断するに、《証拠》を総合すれば、被告柳沢の斡旋によつて、前示のごとく、原告と野村との間に融通手形を互に交換するに至つたものであるが、その際原告の要請にもとづき、被告会社と被告柳沢は、昭和四六年四月八日、野村が原告に対して振出す手形債務について保証することを約し、甲第一号証の「誓約書」を原告に差入れたことが認められ、右認定に反する被告会社代表者兼被告本人尋問の結果の一部は軽々に措信し難く、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。ところで、本件手形債務は、主たる債務者たる野村の商行為によつて生じたものであることは明らかであるから、被告らは、商法第五一一条第二項の規定により、各自連帯して本件手形債務を支払う義務を負うべきものといわざるを得ない。

四、進んで、被告らの通謀虚偽表示および要素の錯誤の主張について判断するに、被告らの右主張ら副うがごとき被告会社代表者兼被告本人尋問の結果は、当裁判所が前示認定の資料とした各証拠と対照してたやすく信用し難く、他に被告らの右主張を肯認するに足りる証拠はないから、被告らの右の主張はいずれも採用することができない。

五、してみると、保証人たる被告らに対しそれぞれ本件手形金一、五〇八万五、八八六円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四八年四月二六日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容する

(裁判官 塩崎勤)

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